「ウジェーヌ・ブーダン展」30年ぶりの大規模回顧展を巡るSOMPO美術館レポート【2026年4月】

Gogh

のんびりランチを食べてから出発

411日、土曜日の午後。会社も休みで、のんびり都営大江戸線に乗って新宿西口駅へ。
外にでると空は晴れ渡っていて、春の陽気が気持ちよかった。

この日はブーダン展の初日。時間予約制ではない気楽さもあり、まずはゆっくりと昼食をとるべく、4番出口近くの「蔵出し味噌 麺場 田所商店」へ。

注文したのは北海道味噌の炙りチャーシュー麺だったはずなのだが、例によって食べることに夢中で写真を撮り忘れてしまった。麺類全般、そしてもちろん味噌ラーメンも好物である私にとって、北海道だけでなく信州、九州麦、伊勢、江戸前と多彩な味噌を選べるこのラインナップは実に魅力的だ。
次回の訪問時には、また別の味を試してみたいと思う。

歩道橋から見た西新宿の景色と、SOMPO美術館の案内板

西新宿の歩道橋に差しかかったところで、新宿駅方面を振り返って撮った一枚。
緑が出始めた並木が道路の両脇に並んでいて
、奥には京王の文字や建設中のビルのクレーンが見える。
空が青くて、春らしい晴れた日。

少し歩いたところに、SOMPO美術館の入口案内板。
白いパネルに
ウジェーヌ・ブーダン展 瞬間の美学、光の探求 と書かれていて、会期は 2026411()621()

「若きクロード・モネを導いた印象派の先駆者“30年ぶりの回顧展」

私はモネの絵が好きで、そのモネに絵を教えたのがブーダンだと知ったのはだいぶ前のことだけど、好きな画家の師匠を好きになるのはごく自然なことで、ブーダンもずっと気になっている画家の一人だった。

いよいよ館内へ。

SOMPO美術館の建物の前。
ガラス張りのエントランスに「
Eugène Boudin maître de l’instantanéité」と大きく書かれていて、中に人が並んでいるのが外から見えた。

13時頃だったが、チケットを求める列はそれほど多くない。
今回、私はあらかじめチケットを購入してあったので、列に並ぶことなくそのまま中へ入ることができた。

写真撮影OKのものをご紹介。

1点目は、荒れた海に帆船が複数浮かぶ大きな油絵で、壁の説明パネルによるとブーダンがまだ若い頃にルーヴルで巨匠たちの作品を模写して学んでいた時期の作品らしく、題名は「嵐(1853年)」。
17世紀のオランダ絵画を模写にしているとのことで、重厚な色調と劇的な雲の表現に、巨匠たちの面影が色濃く感じられた。

 

2点目は、「ル・アーヴルの港、灰色の空」(1852~55年頃)という小ぶりな作品。
多数の帆船が煙を上げながら停泊する港の情景を描いたもので、画面全体が薄いグレーの空に包まれている。 重量感のある空の色と静かな水面のコントラストが鮮やかであり、この時期ですでに、ブーダンならではの独特な空と水の描写が確立されている気がした。

 

「ボルドーの港、バカラン埠頭からの眺め」(1874年)は、ガロンヌ川沿いに停泊する船々と遠くの街並みが、横長の画面いっぱいに広がる作品。
解説によれば、ブーダン自身は必ずしもボルドーを気に入っていたわけではなかったというが、商業港として活気あふれる街の光景を、彼ならではの独自の視線で見事に捉えている。
特に右側に描かれた夕陽の表現が何とも情緒深く、非常に心惹かれる一枚だった。

 

「カマレ、湾、干潮」(1871年)はブルターニュの漁港の作品。
干上がった浜に船が傾いて停まっていて、空がどんよりと曇っていた。
灰色の中に帆柱が何本も重なる構図で、地味だけど妙に惹きつけられる。

 

 

「トゥーク川」(1879年頃)は、曇り空の下にゆったりとした川面が広がり、小舟が数艘浮かんでいる落ち着いた風景だった。
空が全体の半分以上を占めていて、厚い雲の層が水面に色を落としていた。遠くの対岸に建物がわずかに見え、手前の岸には人が立っているようだった。

 

「海景」(1880年代)は打って変わって明るい色彩の海を描いた作品で、青みがかった空の下に白い帆と積乱雲が清々しく並んでいる。
帆船の合間に煙を上げる蒸気船が行き交う姿には、時代の移り変わりをしみじみと感じさせられた。
解説によれば、ブーダンは1882年頃からパリのパントン広場にアトリエを構え、ル・アーヴルへ戻るたびに大きめの作品を精力的に手がけるようになったという。

 

船の部分をクローズアップした一幕。
白い帆が風を受けて力強く膨らみ、粗い筆致によって、近づいて見るとまるで抽象画のような趣があった。
ブーダンの作品は、全体を引いて捉える視点と、間近に寄って筆触を味わう視点とで表情がガラリと変わり、その奥行きの深さに心を惹きつけられた。

 

「エタブル、カンシュ川」(1886)は、干潮時の川岸に小舟が並ぶ静かな作品。
地面で作業している人の姿がいくつかあって、漁師の日常みたいな雰囲気があった。
空は淡いグレーで、水面と地面の境目があいまいで、しっとりしている。

 

「埠頭の帆船」(1885~90年頃)は、2隻の帆船が誇らしげにマストを高くそびえ立たせる、縦長の小ぶりな作品。 解説によれば、1880年代以降のブーダンは帆船に差し込む光の効果に強く惹かれていたとのことで、帆のまばゆい白さと明るい空の絶妙な調和が実に繊細に描き出されている。
19世紀末、蒸気船へと移り変わる激動の時代を生き抜いた画家だからこそ、その姿を消えゆく帆船へ寄せた温かい眼差しや特別な思い入れがあったのだろうと、勝手に胸を熱くしながらその前に佇んだ。

「ベルク、出航」(1890年)は、北フランスの港ベルクを描いた作品。
大小の帆船が帆を広げて沖に向かっていく場面で、空には積雲がもくもくと広がっていた。
海面がうねっていて、出港の力強さみたいなものが伝わってくる作品だ

 

「ドーヴィル」(1869年頃)は砂浜の風景で、広い浜に人がまばらに散っていた。
遠くに帆が小さく見えて、海岸線が画面の半分くらいを横切っている。
大部分を空と砂浜が占めていて、休日の避暑地らしい穏やかな雰囲気があった。
これは日本の海岸と言われても気付かないかもなぁ。

 

「ル・アーヴルの停泊地」(1892年)は、煙突から煙が出る蒸気船や帆船が港に並んでいて、手前に小舟を漕ぐ人が2人いた。全体がグレーとブラウンのトーンでまとめられていて、晩年の作品らしい落ち着きがあった。

 

「トルーヴィルの港の入口」(1892~96年頃)は、いっそう淡い色合いに包まれ、白みがかった空と薄茶色の帆が互いに溶け合うような作品。
点在する小舟や帆の輪郭はあえて曖昧に描かれ、かつての作品と比べると描写のディテールは控えめになっている。 しかしそれが物足りなさを感じさせるわけではなく、むしろ柔らかな光のヴェールに包まれているような心地よさがあり、これはこれで実に味わい深い。

 

「ディエップの港」(1896年)は、白い断崖を背景に帆船と蒸気船が港内に浮かぶ作品。
空が厚い雲で覆われていて全体的に重く荒めのタッチで、岩壁の白さだけがくっきりしていた。

 

撮影可能だったのは5階の第一章「海景」の作品のみ。続いての「空」「風景」「建築」も素晴らしかったが残念ながら撮影不可。その方ゆっくり鑑賞できるんだけどね。

収蔵品コーナーには、アンドレ・ドランの「海辺」もひっそりと展示されていた。
影のように描かれた人物が浜辺に佇む姿は、ブーダンの写実的な港の風景とは対極的な雰囲気を醸し出している。暗く沈んだ色彩が独特の重厚感をたたえ、同じ「海」というテーマでありながら、画家によってこうも異なる世界観が広がるのかと深く引き込まれた。
アンドレ・ドランといえば、2024年11月にアーティゾン美術館で開催された「ひとを描く」展で自画像などを目にして以来、その魅力がずっと記憶に残っていたお気に入りの画家の一人でもある。

圧倒的な凄みのゴッホ「ひまわり」

常設展示の締めくくりとして、SOMPO美術館の象徴であるゴッホの「ひまわり」の部屋へと足を踏み入れた。 何度目かの対面であっても、画面に近づくほどに圧倒される絵の具の盛り上がりには、毎度のように息を呑む。 黄色い花びらのひとつひとつに方向を変えた力強いタッチが重ねられ、少し離れて眺めれば生き生きとした立体感が立ち上がり、間近に寄ればうねるような絵の具の塊が迫ってくる。
いつ見ても胸を打たれる、色あせることのない傑作だ。

2026年5月から開催されている「大ゴッホ展『夜のカフェテラス』」
この記事を執筆している時点ではすでに鑑賞を終えているのだが、ひまわりと同様、あの鮮烈な黄色の表現には圧倒されるばかりだった。

グッズ売り場の前のポスター

2階のグッズ売り場へ向かう通路に、次の展覧会のポスターが貼ってあった。
ひとつは東京都美術館での「カール・ヴァルザー展
世紀末の昏き残照 日本初の回顧展」(2026418日~621日)のポスターで、大きな帽子をかぶった女性が赤い本を読んでいる絵が使われていた。
もうひとつは「アルベール・マルケ展
生誕150周年」(2026411日~531日、ひろしま美術館)のポスターで、上部に「今年の秋に全館に巡回します」という青いシールが貼られていた。

SOMPO美術館でもマルケ展が922日~1213日に開催されるとのことで、これは行く予定にしている。
(ちなみに「カール・ヴァルザー展」はタイミングが合わず逃してしまった。。)

 

展覧会を出て、新宿の空の下へ

展覧会を後にし、外の空気を吸い込む。
これほどまとまった数のブーダン作品に出合える機会はそうそうないだけに、心を満たされる充実した時間だった。
まだ少し時間に余裕があったため、帰路すがら浅草へ足を伸ばし、夕暮れの街並みを少しだけ散策してから家路についた。 その日の寄り道や街の様子については、また改めて別の記事につづることにしよう。

 

 

SOMPO美術館の開館50周年記念という節目に開催された、実に30年ぶりとなる大規模な回顧展。
会場には港や海辺を描いた作品がずらりと並び、カンヴァスごとに異なる表情を見せる空の描写を味わうだけでも夢中になれた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました